硬派の宿命・野望篇

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伯父さんのPEN S

3年前の初夏。
その年の春に亡くなった父方の祖母の法要の件で親族が集まった際に母が携えて来たものがあった。それは使い古されてぼろぼろになったレザーケースに入った小さなカメラだった。

RIMG0027.jpg

OLYMPUS-PEN S

1959年に発売され60年代を通してベストセラーとなったオリンパスのハーフサイズカメラ「ペン」シリーズの第二弾が本モデルである。
当時としても廉価なカメラではあったが、手に取ってみるとズシリと重く、精密機械が凝縮されている様子が判る。外装のクローム鍍金も強固で美しい。当時の日本の工業製品の作り込みは凄いの一言。
一見新古品と言われても差し支えがない状態。だが...

「伯父さんがね、これ壊れちゃったって。シャッターが押せないみたい。それであなたなら直せるんじゃないかって。一応渡しとくわ。」

そのカメラは母の長兄の所有物だった。若い頃から車や機械などのガジェットに拘る洒落者の伯父らしいカメラ選びだなと思った。ひょっとしたら幼少期の頃の私もこのカメラの被写体になっていたかも知れない。

仙台に住む伯父は数年前から体調が悪く、自宅で療養していた。それで妹たち(母と末妹)が頻繁に仙台へ赴いていたのだが、ある日伯父から突然このカメラを渡されたそうだ。「あいつなら直せるんじゃないか?」と。

しかし残念ながら、私は機械式カメラを修理するスキルなど持っていない。
そこで丁度、渋谷のデパートで開催された中古カメラ市で入手したライカのレンズを修理業者にオーバーホール依頼していたので、受け取りの際に件のシャッターが押せなくなったPEN Sを持参して行った。

小石川にあるマンションの応接間で、預けていたレンズを受け取った後に修理業者の方にPEN Sの修理をお願いしてみた。

「基本的に国産品の修理はお受けしてないんです。それはメーカーさんがやるべき事なので。ちょっと見せて下さい...」

PEN Sを渡す。業者さんは馴れた手つきでカメラを点検し始めた。

「これ、どこも壊れてはいませんよ。レンズシャッターの羽根が張り付いて動かなくなってるだけです。よくあることですよ。」

そうですか、と私は予想しなかった返答に少し驚きながらも、何故このカメラが自分の手に渡ってきたのかという経緯をついでに話してみた。
すると突然、奥の作業部屋からオーナーと思わしき年配の男性が顔を出して私にこう言った。

「じゃあ今回はシャッターの清掃だけしときましょう。分解すると大変だから。お時間ありますか?」

私は頷いた。すると綺麗に整頓された作業部屋に通されて、オーナー氏自らが机に向かい洗浄液を付けた筆でシャッター羽根を1枚1枚丁寧に清掃している過程を背後から観察する。どんな業種であろうと本物のプロの手捌きは芸術的な美しさが感じられるものだ。

清掃の終わったPEN Sの作動確認をする。パチンパチンとシャッターが切れるようになった。レンズから見える羽根が子気味良く動いているのが分かる。その後さらに劣化したモルトの交換までして貰った。

この分の修理料金を尋ねてみると、無料でいいとのこと。恐縮する私。
そして帰り際にオーナー氏からこう言われた。

「おじさんのカメラ、大事に使って下さい!」

-----

先日、伯父が亡くなった。
フィルムを詰めたPEN Sで通夜と葬儀を撮影した。それが自分とこのカメラにに課せられた義務のような気がしたからだ。ハーフサイズだからさして枚数を気にせず矢継ぎ早にシャッターが押せた。

通夜が終わった直後、教会の通路で伯母にPEN Sが今も現役で使えることを報告した。

「あら、本当? 伯父さん、いろんなカメラ屋さんに聞いてみたけど直せないって言われて諦めてたのよ。きっと喜んでるわ。これからも使ってあげてね。」

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