硬派の宿命・野望篇

  • 04 «
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • » 06

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

THE GROOVERS #2

日々、悶々としていた。
昼夜逆転なんてもんじゃない。真っ暗な部屋の中は時間という感覚すらが意識から遠のいてしまう。なんで俺はこんなことになったのか...

前年の春にデザイン事務所に就職してから、丸一年仕事漬けの毎日だった。高経済成長期の猛烈企業戦士だった親父にさえ、私のあまりにもハードな勤務状況に「お前、このままだと絶対ブッ壊れるぞ。テメエの身体なんだからな。具合悪かったら仕事置いてそのまま帰って来いよな!」と珍しく優しい言葉(我家比)を投げ掛けられる始末。

で、親父の言う通り、見事にブッ壊れた。
まず春先から右耳の聴力が極端に低下し始め、神田に在る耳鼻咽喉科の専門病院で精密検査を受けても異常なしとの診断結果。しかし、どんどん耳は聴こえなくなっていく。
更に風邪をこじらせて、回復しても咳が止まらない状態が2ヶ月近く続いた。これは耳と違って仕事に大きく影響するので難儀した。

それまで私は精神的なプレッシャーや故障にはそこそこ馴れていたつもりだったが、若さ故に自分の肉体を過信し過ぎていたのだ。一旦身体が言うことを聞かなくなると、精神までもが弱気になってくる。健全なる精神は健全なる身体に宿る...それをこの時の経験で痛感した。

結果、通勤列車に乗ることすら不可能になる程の神経衰弱に陥り、退職せざるを得なくなった。
私は上司に対し辞表と共に医師の診断書...この患者には静養が必要であるという旨の...を携え、残りの有給休暇をすべて使い果たした上で改めて進退について話し合いたいと伝えたが、

「じゃあさ、今すぐ辞めてくれる?」

という一言で、あっさり会社から放逐された。
その足で仕事机を片付け、私物を紙袋に詰めて帰路に就いた。外まで見送りに来てくれたのは30人近く居る社員の中で1人の社員と1人のアルバイトだけだった。
仕事を辞めた日の翌朝、まるで憑き物が取れたように右耳の聴力と咳がすっかり治っていたのには驚いた。やはり精神的なプレッシャーが原因だったのだろう。

しかし、日々のハードな業務を離れてからというもの、また別の重圧が私にのし掛かってきた。
果たして、自分はこれから何をやればいいのか?

私がそのデザイン事務所に就職したのは、現場でのキャリアと基本的なノウハウを身に付ける為だった。そして時期を見計らって次の段階へ移行しようと考えていた。「次」とは、より規模の大きな企業である。私そこで音楽に携わる仕事をやりたいという夢があった。青写真はすでに頭に中で出来上がっていた。自分のように途中で学問を放り出した半端者は、そうやって現場で修練を積んでステップアップしていくしか手立てがないということはよく分かっていた。

しかし、現状では会社に勤務するなど到底不可能だ。何しろ電車に乗るのが恐ろしくて仕方がないどころか、昼間外に出るだけで他人の視線が気になって吐き気をもようしてしまう程の重度の自律神経失調に陥っていた。肉体の傷は癒えても、弱り切った精神の回復にはまだ当分時間が掛かるだろう。

「俺はこのまま廃人になってしまうのか?」という恐怖感。
何の社会的な保証もなく「まっとうに生きていくこと」すらを拒絶され、これまで思い描いていた未来がすべて閉ざされたような気がした。

悶々とした日々を、毎夜家でアルコールを引っ掛けて神経を麻痺させ、その勢いで行きつけのBARへと出向き、顔見知りたちと馬鹿話をしてやり過ごしていた。酒を呷ることで現実逃避していた。その結果、あっという間に体重が5kg増え、あまりの体調の悪さに病院で精密検査を受けたら「急性脂肪肝」と診断される。そこで医師から無期限の禁酒を言い渡された。

そんな精神的にも肉体的にもどん底の頃に、新生THE GROOVERSが遂にメジャーデビューするという報を聞いた。就職する前に彼らのライブを観に行ってからというもの、前年に自主制作でシンングルを出したという話は知っていたが、殆ど情報が入って来ない(というか、こちらにそんな余裕がなかったのだが)状態だった。

私は日中の陽光と往来を行き交う人々の存在に抗い、途中で何度も嘔吐を繰り返しながらも最寄りのCDショップへと赴き、発売されたばかりのアルバム『Top Of The Parade』を手に取ってレジへ向かった。
とにかく、新しい刺激を体内に入れたかった。新しい音楽を身体が欲していた。そうしなければ自分が再生出来ないような気がしたのだ。
理由はよく判らないが、その時の自分にとってその役目はTHE GROOVERSでなければならなかった。私は自分の嗅覚を信じた。

(この項続く)

■ トラックバック

http://hookert.blog57.fc2.com/tb.php/220-f0b06ed3

 | HOME | 

■ プロフィール

泰山 / TAIZAN

Author:泰山 / TAIZAN
I'm a man.
I'm just an average guy.

■ 最新記事

■ 最新コメント

■ 最新トラックバック

■ 月別アーカイブ

■ カテゴリ

■ RSSリンクの表示

■ RSSリンクの表示

■ 検索フォーム

■ RSSリンクの表示

■ ブロとも申請フォーム

■ QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。