硬派の宿命・野望篇

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トレンチコート

雛祭りの前日に叔父が亡くなった。
まだ60代という若さ故にショックが大きかった。

叔父は私の母の末妹の旦那さんで、母方の親戚の中では最も若い叔父だった。
小さい頃から明治男の祖父を筆頭に、戦中派の父親世代の大人たちにばかりに囲まれて育って来た私にとって、比較的自分に年齢の近い若々しい感覚を持った叔父の存在がとても嬉しかった。
親父たちの世代が教えてくれないような文化...小説や漫画を「タイちゃん、これ読んでごらんよ」と勧めてくれた。そんなことから、血は繋がってはいないけれど、まるで年の離れた兄貴のように思っていた。

叔父と初めて対面した時のことを今でも憶えている。
小学校に上がったばかりの頃。母と叔母と一緒に、確か東京駅の地下街だったと思うが、三人で待ち合わせの場所で立っていたことを記憶している。

暫くすると遠方からスラリとした細身で瀟洒な男性がこちらに向かってきた。長い鬢をたくわえベージュのトレンチコートを着たその男性が叔母に向かって微笑み掛けた。そして母と私に挨拶する。

それが叔父との初対面だった。その後、四人で何を話したかは覚えていない。
二人と別れた後、母が私に向かって言った。

「あの人、お姉ちゃん(叔母のこと)の旦那さんになるのよっ!」

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葬儀の最後に、長男(私の従兄弟)が遺族を代表して挨拶をした。
その内容は、父親は病の床に在っても布団に寝たきりの生活をせぬよう、昼間はきちんと洋服に着替え好きな読書に没頭するという実にスタイリッシュな叔父らしい折り目正しい「流儀」を貫いた最期の生活の様子を弔問客に伝えていた。

出棺直前に棺の中へ献花する際、叔父の足の上にカバーが外れた一冊の古びた文庫本が置いてあった。
叔父が大好きだった山口瞳の『江分利満氏の優雅な生活』。これは遺族が叔父の「流儀」に応えた形であろう。

私はこの日、ブラックスーツの上にトレンチコートを羽織って葬儀に赴いた。しかし色はベージュではなくダークグレー。
これが私の「流儀」である。


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